防災・減災フォーラム 2005 in 長野 「〜台風23号水害の検証とみんなで考える地域の防災〜」
集中豪雨や台風による災害への対応を考える「防災・減災フォーラム2005」 (信濃毎日新聞社、全国地方新聞社連合会主催)が14日、長野市内のホテルで開かれた。 集中豪雨が頻発する傾向が強まる中、行政や地域に加え、個人レベルでも新たな対応が求められている。 どうすれば災害に強い地域社会をつくれるのか―。 「最近の異常気象と長野県の気象特性」をテーマにした長野地方気象台長の岸尾政弘さんの基調講演を受けて、 防災にかかわる5人が話し合った。 パネリストは国土交通省千曲川河川事務所長の田上澄雄さん、信大工学部教授の富所五郎さん、 須坂市長の三木正夫さん、長野市消防団長の中沢学さん、飯山市区長会協議会長の山本茂樹さん。 コーディネーターは山崎啓明・信濃毎日新聞社論説委員が務めた。
基調講演
「最近の異常気象と長野県の気象特性」
岸尾 政弘
(長野地方気象台長)
■強い雨の頻度、増加
異常気象とは、過去三十年間あるいはそれ以上の期間で観測されなかった現象をいいます。日本の気温を見ると、異常高温の発生数が近年増加し、しかも平年値をかなり上回ってきている。長野市では一九九〇年以降の異常高温が四回なのに対して、異常低温は一回。温暖化傾向にあることが分かる。
日本の降水量の変化を見ると、長期的には減少してきている。だが、全国のアメダス観測点の資料を見ると、強い雨の頻度は九〇年代初めには少なかったのに、近年は増えている。県内では九五年七月に「小谷豪雨」があった。集中豪雨は、次々に補給された水蒸気が上昇気流に乗って雲になり、それが地形的要因で特定地域に停滞することで起きる。
県内の気候は、内陸特有の特徴がある。年降水量は一五〇〇ミリ以下で、沖縄のだいたい半分程度。日照時間は長い。だが七九年以降、大雨の降る日数は増える傾向にある。一時間に三〇ミリ以上の雨が降る頻度は、県の南西部、北東部に多く、長野や中部盆地では少ない。統計によると、多い地域では毎年、少ない地域では五年に一度、一時間に三〇ミリ以上の雨が降る計算になる。
昨年は台風が十個日本に上陸し、一九五〇年以降で最多だった。だが、発生数は二十九個。それほど多くない。これはフィリピン沖の大気の対流活動が活発だったため太平洋高気圧が西に張り出し、台風が高気圧の西縁を北上して日本に接近しやすかったためだ。
十月二十日に襲った台風23号は、県内でも人的被害、家屋の浸水、土砂崩落などの災害をもたらした。雨量も記録的だった。
まとめると県内の年降水量は少ないが、近年は前線や台風の影響で平年値を大幅に上回る大雨が降るようになっている。注意が必要だ。気象や河川の情報を正確にとらえ、適切に対応することが大事だ。
パネルディスカッション
「みんなで考える地域の防災」
【パネリスト】
田上 澄雄
(国土交通省千曲川河川事務所長)
富所 五郎
(信大工学部教授)
三木 正夫
(須坂市長)
中沢 学
(長野市消防団長)
山本 茂樹
(飯山市区長会協議会長)
【コーディネーター】
山崎 啓明
(信濃毎日新聞社論説委員)
■千曲川下流に被害集中/富所
■思い出す20年前の恐怖/山本
山崎/
局地的に豪雨が降るケースが増えている。千曲川の出水の状況、地形的特徴から。
田上/
長野県は三千メートル級の山から水が一気に盆地に流れ込むという特徴がある。盆地には人口が集中し、災害の可能性は非常に高い。昨年十月の台風23号では、千曲川の立ケ花観測所(中野市)での水位が一九五〇年以降で四位、一九八三(昭和五十八)年の台風災害以来の大水害になった。中野市替佐の無堤防地区で浸水。飯山市では堤防ぎりぎりまで増水した。
富所/
千曲川の河川図を見ると、上田市、中野市、飯山市に狭さく部がある。ここに水が集中し、水があふれやすく、ひとたび破堤すれば大災害になる。浸水被害状況などをみると、下流に被害が集まっている。上流部と下流部が連携して河川整備を進める必要がある。
山崎/
昨年の台風23号の災害はどうだったか。
三木/
須坂市の八木沢川が千曲川に流れ込む付近で、防水壁があと五十センチであふれるところまで増水した。高齢者と足が不自由な人が自主避難し、市は保健師を派遣して健康や食事の相談に応じた。排水ポンプは能力を超えたことなどで故障。千曲川河川事務所と建設会社から移動式ポンプ車十七台を借りて排水した。その際、大きなごみが作業の支障になった。ごみを河川に捨てないで、と強くお願いしたい。
中沢/
昨年十月二十日は夕方以降、二、三分おきに一一九番通報が入り、消防団の出動を指示した。長野市柳原では北八幡川が増水し、深夜に二百世帯に避難勧告を出した。この時、同報無線だけでなく職員と自主防災会とで戸別訪問して避難を呼び掛けた。また、同市安茂里の小学校体育館には土砂が押し寄せた。重機が入れず、団員二百人が作業した。
山本/
千曲川は飯山市の綱切橋上流の道路が冠水、樽川堤防は漏水した。堤防に土のうを積み、破堤は免れたが、地下から水がわいてくる状態で危機一髪だった。幸い人的被害はなかったものの、台風23号は二十年前の水害の恐怖を住民によみがえらせた。
■空振り恐れず避難情報/三木
■女性の団員、増やしたい/中沢
■無堤地区の解消に全力/田上
山崎/
高齢化や核家族化が進み、地域のつながりが薄くなる中で、防災への取り組みや課題は。
三木/
今の時代は情報発信が重要。防災行政無線に慣れてもらうため区の情報を流せるようにし、テストを毎年行うことにした。台風や不審者、イノシシ出没などの情報を流す防災防犯メールも発行している。避難情報については、少しでも危ないと思ったら(結果的に避難の必要がない)「空振り」を恐れず、避難していただくよう区長らと相談した。
中沢/
一九八九年に県内で四万四千七百人いた消防団員が、昨年は三万九千百人と一割減った。サラリーマンが多くなったのが原因。市町村合併の際、団員が定員に達していないから定員を減員して合併した例もある。今後は女性消防団員を増やし、企業にも協力を求めたい。特に女性は火を使う機会も多く、地域の意識啓発の面でも重要な役割を担っている。
山本/
飯山市では昔から農作業を相互に手伝う「とうど」という風習があった。これに習って八百人余の隣組長を中心に「見守りとうど衆」を組織した。一人暮らしのお年寄りの訪問や話の聞き役を務め、日ごろから地域で災害弱者を支えようという仕組みだ。今年は市内百九の集落すべてに自主防災組織をつくることをテーマにしている。
田上/
私たちが管理する千曲川の堤防二百三十キロのうち、整備が済んだのは半分。まだ堤防がない地区も三十四キロある。予算が限られる中、無堤地区の解消に全力を上げている。ソフト面では浸水想定区域を公表した。自分が住んでいるのはどんな場所か、確かめてもらうことが重要だ。
山崎/
今後の治水の在り方や防災について提言を。
富所/
近年は集中豪雨が頻発するため、(流域面積が小さく影響を受けやすい)中小河川への対策が求められる。上下流のバランスを考慮して進めることが必要だ。住民も防災グッズを備え、災害環境情報を集めることが欠かせない。自分が住んでいる所や職場の地形条件、どんな災害が起きやすいかを知っておくなど、各自が意識を高めて災害に対応してほしい。
■2004年の台風23号災害
超大型の台風23号は昨年10月20日午後、四国に上陸後、大阪府に再上陸し、そのまま本州を縦断。沢の水を見に行った下伊那郡阿智村の男性がトラックごと転落し死亡。JR飯田線は上伊那郡辰野町で道床が流出し、普通列車が水田に転落、4人がけがをした。旧木曽郡楢川村(塩尻市)のJR中央西線でも普通列車が脱線。国道19号は長野―松本間で寸断され、北安曇郡八坂村は孤立状態になった。けが人は全県で8人、避難した人は4000人余。家屋の全半壊は3棟、床上浸水40棟、床下浸水は630棟。国・県道の通行止めは76区間。リンゴ、モモなどの果樹を中心に農作物に約10億円の被害が出た。
※掲載にあたり、出席者などの敬称はすべて省略させていただきました。
主催
信濃毎日新聞社、全国地方新聞社連合会
後援
国土交通省、長野県市長会、長野県町村会、長野県河川協会、長野県治水砂防協会、(財)河川情報センター、(社)土木学会、(社)砂防学会、(社)日本災害情報学会、共同通信社、NHK長野放送局
全国地方新聞社連合会
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